代表発起人 臨済宗妙心寺派管長 河野太通
今、日本の仏事習慣に大きな変動が起きている。年忌法事の省略、不履行、伝統的葬祭形態を必要としない葬儀の日常化などである。
東京圏では、通夜や告別式を行うことなく斎場に直行する『直葬』が、全葬儀の三割に達すると聞く。
これは葬儀のみならず、一般社会の伝統的儀礼を、その背景にある精神文化を慮ることなく単に面倒なものとして省略する思いと、経済的理由によるようである。
その原因が、仏教教団側の今日までの教化が必ずしも十分でなかったことは認めなければならないが、社会が仏教僧を必要としなくなったということであろう。
このような状況が広がれば、誦経、法事、葬儀を主な仕事としてきた僧は、経済的基盤を失うことになる。
しかし一方で、時間に恵まれることになる。その時間を活用して、新たな活動に立ち上がらなければならない。
既に「臨床僧の会・サーラ」の会員である僧が、各地のがん患者の会などに出席して対話するなどの実績を上げつつある。また、5名の若き僧が、夜間のヘルパー講座に通い始め、介護士としての資格取得の段階に入った。今の社会に必要とされる僧侶が育ちつつあることは喜ばしい。
臨床介護の辿りつくところは、自己介護であろう。自身の末期は誰にでも訪れることであるが、今、相対する方々は自己自身であると心得たい。悩み苦しむ人々と時間を共に送ることこそが、臨床僧の役割である。
そのような臨床の一つひとつが現成公案の授受の時であり、己自究明の場である。そして、それこそが新たな仏教創出の今日的展開の第一歩となる。
日本仏教の未来を拓く、有為の諸氏の参加を期待している。