『臨床僧の会・サーラ』は、京都府下の「がん患者の会」や「がん患者サロン」など、約20団体が所属する『京都府がん患者団体等連絡協議会』(以下、がん連協)のメンバーです。
入会のキッカケは、設立当初から私と達磨寺住職の佐野さんが勉強会に参加していた『京都がん医療を考える会』の理事長であり、『がん連協』の前会長でもあった佐藤好威さんからの依頼でした。
最初は一会員として、私が総会などに参加していたましたが、佐藤さんが会長を辞するに当たり、役員就任を要請されました。『臨床の会・サーラ』が未だ軌道に乗っていないこともあって固辞したのですが、人材不足を目の当たりにして副会長を引き受けることになりました。
『がん連協』の主な活動は、①患者会やサロンなど各加入団体の情報交換と相互交流の促進、②がん患者、家族、遺族への情報提供と支援、③がん医療事業における行政との連携などです。
平成23年4月には、「京都府がん対策推進条例」が制定され、府下全域16カ所の病院が、がん診療の拠点病院や連携病院、推進病院に指定されました。条例で、それぞれの病院に患者会やサロンの設置が推奨されたこともあって、昨年度は山城地域の病院を中心に患者サロンの開設が相次ぎました。
患者サロンを恒常的に運営していくためには、ファシリテーター(世話人)と呼ばれる方たちの存在が欠かせません。サロンに患者さんやご家族を迎えてお話を聞き、様々な気配りをしながらサロンを運営する文字通りの世話人です。一昨年から、『がん連協』が主体となって、その世話人を養成する講座を開催してきました。
副会長としての私の担当は、その「世話人養成講座」になりました。既に活躍している世話人や医療関係者に依頼して、サロンの目的や世話人の役割などを分り易く話して貰い、世話人をやってみようと思っている人たちの背中を押すのです。
講師の選任にあたって、あちこちのサロンや病院を訪れました。サロンは月に二回程度開催され、平均すると十名~一五名程度の方が集まるようです。
サロンでの驚きは、患者さんたちの明るさでした。皆さん、ガンと闘いながら日々暮らしている筈なのですが、笑顔が絶えません。
そんな患者さんたちを支えているのが世話人さんです。一緒にお茶を飲みながら、皆さんのお話を静かに聞いています。輪の中心にいながら、主役は患者さんたちに譲っているという感じでしょうか。これこそが「傾聴」だと納得しました。
当然、時には重たい話題もあるのでしょうが、こうした日頃の信頼関係があれば、患者さんも心を開いて悩みを話せるに違いありません。そんな様子を見て、世話人の方には、それぞれのサロンでの普段の活動をそのまま話して貰うことにしました。
サロンを訪問する中で気になったのは、医療関係者の関わりです。条例で院内にサロンの設置が推奨されているように、がん対策には患者と医療関係者の連携が不可欠です。ところが、ほとんどのサロンに医師や看護師の姿はありません。聞いてみると、医師や看護師がいると患者さんが話し難いというのです。
サロンは、診察では聞けない治療以外の悩みや苦しみを相談する場と思っていたのでチョッと驚きました。私は医師や看護師の側も、患者さんやその家族がどんな悩みを持ち、何に不安を抱いているのかを知るいい機会だと考えていたのです。
言うまでもなく、患者さんにとって一番重要なのは、がんの治療です。特効薬が見つかり、全てのがんが克服されてしまえばサロンも必要ないのでしょう。しかし今、日本人の死亡原因の第一はがんで、長期にわたる闘病が必要です。部位や種類によっては現代の医学でも治療することができない病気なのです。
そのことは医師が一番よく分っている筈です。分った上で、残された時間をどう過ごすことができるのかを医学的な見地からアドバイスして欲しいのです。そこには、医療関係者だけでなく、様々な分野のカウンセラーやアドバイザー、宗教者などの存在が不可欠です。そうした人々と力を合わせて患者さんの人生をより充実したものにすることが、サロンにおける医師の役割ではないでしょうか。
養成講座の講師をお願いする医師は、皆さん素晴らしい方ばかりです。逆に言うと、素晴らしい方だからこそ講師をお願いするのですが、他の医師との間には大きな意識の差があり過ぎます。QOL(生命/生活の質)の充実などと言いながら、今の日本のほとんどの医師は、患者の人生に考えが及びません。病院経営と病気を治すことが全てですから、治療方法が見つからない患者さんたちにどう対処していいのか分らないのです。医学部における生命倫理の授業が一コマか二コマという現状では、当然の結果なのでしょう。
しかし、そのために患者さんは、予後と呼ばれる貴重な半年・一年という時間を、抗癌剤の副作用と闘うことだけに費やしてしまうのです。
それぞれの患者さんには、やるべきことや、出来ることがたくさんある筈です。痛みやダルさなどをコントロールすれば、仕事も出来ますし家族旅行にも出かけられるでしょう。そして、人生の最後をどう締めくくるのか…。
患者サロンが、そんな話ができる場所になって欲しいと思っています。そして、その場に、「生死」のプロである臨床僧が寄り添い、患者さんや医療関係者の悩みや苦しみを聞かせていただきます。
(児玉修)